大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成元年(行ケ)261号 判決

一 請求の原因一、二の事実(特許庁における手続の経緯及び審決の理由の要点)が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いのないところである。

二 取消事由の有無についての判断

1 本願商標及び引用商標の各構成、その指定商品及び登録出願日並びに引用商標の登録日が審決認定のとおりであることは当事者間に争いのないところ、別紙(一)及び(二)に示すとおりの本願商標及び引用商標の構成をみると、いずれの欧文字も格別の意味を有しないいわゆる造語であるといえるから、これらに接する取引者、需要者は、その欧文字の構成を、欧文字で国語を綴つたいわゆるローマ字綴りにしたがつて発音して称呼するか、英語の表音記号(音声記号)にしたがつていわゆる英語風に発音して称呼するか、本件に即していえば、両商標について冒頭の構成である「LU」、「 」を、前者にしたがい「U」を「ウ」と発音して「ル」と称呼するか、後者にしたがい「U」を「ア」と発音して「ラ」と称呼するか、両様の場合が考えられるが、一般には、ローマ字綴りにしたがつた国語読みにより称呼をするものと推認するのが相当であるところ、両商標の指定商品である第九類の商品(産業機械器具関連商品)を扱う業界において、他業界に比し特に頻繁に英語を用いて日常取引をしているものと認めるに足りる証拠もないのであるから、両商標に接する取引者・需要者の多くはローマ字綴りにより「LU」、<省略>をいずれも「ル」と発音し、本願商標を「ルクソ」、引用商標を「ルクソル」と称呼するものと推認される(引用商標のように語の末尾が「R」である場合、これを「ル」と発音するか、直前の母音を長音として発音し、「R」自体は発音しないかのいずれかであるが、本件においては、引用商標の称呼が「ルクソル」であることについて当事者間に争いのないところである)。

原告は、本願商標の使用者である原告の商号が「株式会社ラクソー」であるところから、本願商標に接した取引者・需要者としては、本願商標も商号に照応させたものと認識して本願商標を「ラクソー」とのみ称呼するものであると主張する。しかしながら、商標は、輾転流通することが予定された商品に付され、それ自体によつて商品の識別機能を発揮するものであるから、その商標が付された商品を製造販売する営業の主体を表示する商号とは独立して使用されることがあるのであり、また、取引者・需要者が、商標によつて商品を識別するに当たつても、常に、それを製造販売する営業主体の正確な商号を想起するものではないから、本願商標とその商標の登録出願人の商号との間に、原告主張のような関係があるからといつて、本願商標が「ラクソー」とのみ称呼されるものと認めることはできない。

その他、本願商標が「ラクソー」とのみ称呼されるものと認めるべき根拠となり得る格別の証拠も見出せない。したがつて、本願商標からは「ラクソー」の称呼のみが生ずるものとする原告の主張は採用の限りでない(なお、成立に争いのない甲第四号証によれば、本願の商標登録出願を審査した審査官は本願商標の称呼を「ラクソー」であると認定したことが認められ、他方審決においては本願商標の称呼を「ルクソ」であると認定しているが、かかる特許庁内部における称呼に関する判断の不統一が、当裁判所の前記判断を左右するものでないことはいうまでもないところである。)。

2 そうすると、審決が、本願商標と引用商標との類否判断に当たつて、本願商標からは「ルクソ」の称呼が生じるものと認定したうえ、この「ルクソ」の称呼と引用商標の「ルクソル」の称呼と対比したことには何ら誤りはないというべきである。また、「ルクソ」と「ルクソル」の称呼との相違は、審決の認定判断したとおり語尾に「ル」の音の有無の点のみであり、かつこの「ル」の音は語尾にあることから、一連に称呼したときには「ル」の音の有無は不明確になり、両者の称呼を明瞭に識別させるような性質の違いとはならないものである。したがつて、「ルクソ」と「ルクソル」の称呼は彼此相紛れるおそれがあるものというべきである。また、引用商標について、「ルクソール」と称呼することがあるとしても「ルクソル」と「ルクソール」の称呼とは「ソ」を短音として発音するか長音として発音するかの差異にとどまり、本願商標と彼此相紛れるおそれがあるものであることには変わりがない。したがつて、結局、本願商標と引用商標とは称呼において類似する商標と認めざるを得ないから、これと同旨の審決の判断は正当である。

3 そうすると、本願商標と引用商標とは称呼において類似するものといわざるを得ず、かつ、指定商品が同一であることも争いのないところであるから、本願商標は、商標法四条一項一一号に該当するものである。

三 以上のとおりであるから、その主張の点に認定判断を誤つた違法があることを理由に、審決の取消しを求める原告の本訴請求は理由がないので、これを棄却する。

〔編注1〕本件における請求原因は左のとおりである。

一 特許庁における手続の経緯

原告は、昭和五五年七月一八日、別紙(一)に示すとおり黒地の横長長方形中に白抜きで「LUXO」の文字を書してなる商標(以下「本願商標」という。)について、指定商品を第九類「産業機械器具その他本類に属する商品」として商標登録出願(昭和五五年商標登録願第五九六八五号)をしたが、昭和五八年一〇月二五日拒絶査定を受けたので、同年一二月八日これを不服として審判の請求をした。特許庁は、右の請求を昭和五八年審判第二五〇六三号事件として審理した結果、平成元年九月二一日「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をした。

二 審決の理由の要点

1 本願商標の構成、指定商品及び商標登録出願日は前項記載のとおりである。

2 原査定において、本願商標の拒絶理由に引用した登録第一五八五六八二号商標(以下「引用商標」という。)は、別紙(二)に示すとおり「LUXOR」(Lの文字はやや大きく書かれている)」の文字よりなり、第九類「産業機械器具、動力機械器具(電動機を除く)、風水力機械器具、事務用機械器具(電子応用機械器具に属するものを除く)その他の機械器具で他の類に属しないもの、これらの部品及び附属品(他の類に属するものを除く)機械要素」を指定商品として、昭和五四年二月一四日登録出願、昭和五八年四月二七日登録され、現に有効に存続しているものである。

3 よつて按ずるに、本願及び引用商標の構成は前記のとおりであるところ、「LUXO」、「LUXOR」の文字は共に何らの意味を有しない造語と認め得るものであり、かかる特定の語義を有しない造語よりなる商標にあつては、これに接する取引者・需要者は、ローマ字風読み若しくは英語風読みの称呼によつて取引に資する場合も決して少なくないものと判断するのが相当である。

そうとすれば、親しまれているローマ字風読みにならい、本願商標は「LUXO」の文字に相応し「ルクソ」、引用商標は「LUXOR」の文字に相応し「ルクソル」の称呼が生ずるものである。

そこで「ルクソ」と「ルクソル」の称呼についてみるに、両者は語頭からの三音「ル」「ク」「ソ」の音を共通にし、語尾において「ル」の音の有無に差を有するが、「ル」の音は明瞭に聴取される強音とも認められず、他の位置の音に比して明瞭に発音されがたい語尾に位置することと相俟つて一連に称呼したときはこの音の有無の差は、全体に与える影響は微差となり、彼此相紛れるおそれがあるものといわなければならない。

4 してみれば、本願商標と引用商標とは、称呼において類似する商標であり、かつ、指定商品も同一のものであるから、結局、本願商標は商標法四条一項一一号に該当し登録することができない。

〔編注2〕本件における別紙は左のとおりである。

別紙

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!